記事一覧に戻る

実測データ分析

持株会社の「平均年収」はなぜ高く見えるのか|HD427社の単体データを実測

公開: 2026-07-05 ・ 更新: 2026-07-05 ・ 著者: 金脈コード運営事務局

「◯◯ホールディングスの平均年収は1,500万円」——就職・転職の下調べでこうした数字を見たことがあるはずです。 しかしこの数字は多くの場合、グループ数万人の平均ではなく、本社に所属する数十人の平均です。 本記事では、有価証券報告書の「平均年間給与」がどう作られる数字なのかを制度から説明した上で、 社名に「ホールディングス」等を含む上場企業427社の単体データを全数集計し、実態を数字で示します。 本記事はデータの実測に基づく情報提供であり、投資助言ではありません。

有報の「平均年収」は提出会社単体の数字

有価証券報告書の「従業員の状況」に記載される平均年間給与は、開示府令上、報告書を提出する会社(提出会社)単体の従業員が対象です。 事業会社が自ら提出していれば実際に働く社員の平均に近い値になりますが、 持株会社(ホールディングス)体制の場合、提出会社は「グループを束ねる本社」であり、 所属するのは経営企画・財務・人事などの本社スタッフと出向者が中心です。

本社スタッフは管理職・専門職の比率が高いため、平均年収は事業会社の現場を含む水準より高く出ます。 これは制度上正しい開示であり「粉飾」ではありませんが、「その会社に入社したときの期待年収」とは別物です。

実測: HD427社の単体従業員は「中央値50人」

社名に「ホールディングス」「HD」「グループ本社」を含む上場企業427社と、それ以外の事業会社2,727社について、 最新年度の有報から平均年間給与と単体従業員数を集計しました(両方の開示がある企業が対象)。

区分社数平均年収の中央値単体従業員数の中央値
持株会社(HD等)427社701万円50人
事業会社2,727社641万円377人

持株会社の年収中央値は701万円で、事業会社(641万円)より60万円高い一方、 単体従業員数の中央値はわずか50人。事業会社の377人と比べると、 「平均」の母集団が桁違いに小さいことがわかります。 さらに、427社のうち367社(86.0%)は単体従業員が300人未満でした。 グループ全体では数千〜数万人を雇用する企業グループでも、有報の年収欄が映しているのは本社の数十人なのです。

単体年収が高いHDの実例(従業員数とセットで見る)

コード社名業種平均年収(単体)単体従業員数
3132マクニカホールディングス卸売業1,750万円38
4676フジ・メディア・ホールディングス情報・通信業1,660万円43
8601大和証券グループ本社証券・商品先物1,626万円494
2986LAホールディングス不動産業1,604万円6
8766東京海上ホールディングス保険業1,536万円1,232
3608TSIホールディングス繊維製品1,497万円8
4235ウルトラファブリックス・ホールディングス化学1,456万円12
9684スクウェア・エニックス・ホールディングス情報・通信業1,436万円25
9404日本テレビホールディングス情報・通信業1,390万円227
8604野村ホールディングス証券・商品先物1,376万円177

例えばLAホールディングス(1,604万円)の単体従業員は6人、 TSIホールディングスは8人、ウルトラファブリックスHDは12人です。 この規模になると、役員に近い本社メンバーの構成次第で平均値は大きく動きます。 一方、東京海上HD(1,232人)や大和証券グループ本社(494人)のように本社機能が大きい持株会社では、 母集団が大きいぶん「グループ中核人材の平均」としての意味合いが強くなります。 同じ「持株会社の平均年収」でも、従業員数によって数字の性格が変わるのです。

時系列の「断絶」にも注意 — 232社で従業員数が3倍超変動

持株会社化や会社分割があると、同じ企業ページの年収推移でも「集計対象」が途中で入れ替わります。 当サイトの全数チェックでは、連続する年度で単体従業員数が3倍超変動した企業が232社ありました。

典型例がパナソニック ホールディングスです。持株会社制移行前の2022年度まで単体従業員は約5.5万人(旧事業会社)でしたが、 移行後の2023年度は約1,300人(持株会社本社)となり、平均年収も約759万円から900万円台へジャンプしました。 働く人の給与が急に上がったのではなく、数字の対象が「工場を含む全社」から「本社」に変わったためです。

金脈コードの企業ページでは、こうした誤読を防ぐため(1)平均年収に「提出会社(単体)ベース」の注記を常時表示し、 (2)年度間で従業員数が3倍超変動した場合は集計対象が変わった可能性の注記を自動表示しています。

年収データを正しく使うチェックリスト

  • 単体従業員数をセットで見る — 数十人なら「本社の平均」、数千人なら「会社全体の平均」に近い
  • 社名に「ホールディングス」があれば一段割り引く — 実測でHDの86%は単体300人未満
  • 時系列の急変(持株会社化・分社)を確認する — 断絶の前後で数字の意味が変わる
  • 同業の事業会社と比べる — 業種別の水準は平均年収ランキングの業種フィルタで確認できます

関連ページ

よくある質問

Q. 有価証券報告書の平均年収は誰の平均ですか?

A. 報告書を提出する会社(提出会社)に所属する従業員単体の平均です。持株会社の場合は本社スタッフのみが対象で、グループの事業会社で働く大多数の社員は含まれません。当サイトの実測では、持株会社427社の単体従業員数の中央値は50人でした。

Q. 持株会社の平均年収はどのくらい高く出ますか?

A. 全数集計では持株会社の年収中央値が701万円、事業会社が641万円で、中央値ベースの差は60万円でした。ただし個別に見ると、単体従業員が10人未満の持株会社では1,500万円を超える例もあり、母集団が小さいほど本社の人員構成に左右されます。

Q. グループ全体の平均年収を知る方法はありますか?

A. 有報の法定開示にはグループ全体の平均年収の記載義務がないため、正確な値の取得は困難です。目安としては、中核事業会社が有報や採用情報で開示する水準、または同業の事業会社の水準を参照する方法があります。連結従業員数と単体従業員数の差を見れば、単体の数字がどの程度「本社寄り」かは判断できます。

本記事は有価証券報告書「従業員の状況」のXBRL・テキストデータの全数集計(最新年度ベース)に基づく情報提供であり、 特定企業への就職・投資を推奨するものではありません。持株会社の判定は社名(ホールディングス・HD・グループ本社等)によるもので、 持株会社体制でも社名に含まない企業は事業会社側に集計されています。