1. 5社の主要指標サマリー(2025年度)
5社の最新2025年3月期決算を一覧します。すべて各社の有価証券報告書および金脈コード上のXBRLデータに基づきます。
| 企業 | 売上 | 営業利益 | 純利益 | OM | ROE | PER |
|---|---|---|---|---|---|---|
| トヨタ自動車 | 48.0兆円 | 4.8兆円 | 4.8兆円 | 10% | 12.9% | 7.3倍 |
| 本田技研工業 | 21.7兆円 | 1.2兆円 | 8,358億円 | 5.6% | 6.6% | 7.5倍 |
| 日産自動車 | 12.6兆円 | 2,102億円 | −6,709億円 | 1.7% | -12.3% | N/A |
| SUBARU | 4.7兆円 | 4,053億円 | 3,380億円 | 8.7% | 12.5% | 5.8倍 |
| マツダ | 5.0兆円 | 1,890億円 | 1,141億円 | 3.8% | 6.3% | 5.2倍 |
※ OM = 営業利益率(Operating Margin)。日産のPERは赤字のため算出不能。
2. 売上規模で見る業界構造
5社合計の売上高は約92.0兆円に達します。各社の業界内シェアを視覚化します。
トヨタは48兆円と他社を圧倒し、2位ホンダの2倍以上。トヨタ単独で日本のGDP(約600兆円)の8%を占める巨大企業です。 一方、5位マツダ(5兆円)と4位SUBARU(4.7兆円)は規模が近く、両社合計でもトヨタの4分の1以下です。
自動車産業は規模の経済が極めて重要な業種で、開発費・設備投資の固定費を多くの台数で割れる会社ほど競争優位を持ちます。 ホンダ・日産はトヨタを追う立場、SUBARU・マツダは特定の市場・セグメントに特化する戦略を取っています。
3. 営業利益率に表れる収益力の差
営業利益率は本業の稼ぐ力を示す指標です。5社の2025年度営業利益率を可視化します。
トヨタ(10.0%)とSUBARU(8.7%)が高収益グループを形成しています。 トヨタは大規模・ハイブリッド技術・グローバル販売網による効率性、SUBARUは北米偏重戦略でブランド力を強みに高利益率を維持しています。
一方マツダ(3.8%)と日産(1.7%)は明確に苦戦しています。 マツダは品揃え不足、日産は市場戦略のミスマッチが背景です。輸送用機器業界の中央値が約5%なので、この2社は業界平均以下になっています。
4. 配当推移と株主還元方針
2023〜2025年度の1株配当の推移は、業績の差を直接反映しています。
| 企業 | 2023年度 | 2024年度 | 2025年度 | 2年での増減 |
|---|---|---|---|---|
| トヨタ自動車 | 45円 | 54円 | 72円 | +60% |
| 本田技研工業 | 118円 | 46円 | 66円 | 株式分割考慮要 |
| 日産自動車 | 5円 | 15円 | 15円 | +200% |
| SUBARU | 66円 | 86円 | 107円 | +62% |
| マツダ | 40円 | 50円 | 60円 | +50% |
トヨタは2年で60%の大幅増配、SUBARUは62%増配と、業績好調を反映した強い増配トレンドを示しています。 マツダも50%増配で業績悪化の最中でも還元意欲は維持。
ホンダは2024年7月に株式分割(1:3)を実施しており、表面的な配当額の比較ではトレンドを誤読しやすい点に注意してください。 分割考慮後ベースでは配当は微増です。
日産は2025年度に巨額赤字を計上したものの、配当は15円で維持。 ただし配当性向は赤字下では算出不能で、来期は減配・無配のリスクもあります。
5. 日産の最終赤字6,709億円が示すもの
日産自動車は2025年3月期に最終赤字6,709億円を計上しました。 これは2022年3月期以来3年ぶりの赤字で、主因は3つあります。
- 米国市場の収益悪化: 競合のハイブリッド車・SUVに対し、日産の主力車種の競争力低下が顕在化
- 中国市場のEVシフト遅れ: 中国系メーカー(BYD・Li Auto等)への市場シェア急速な喪失
- リストラ費用: 9,000人規模の人員削減と工場閉鎖関連の特別損失
ROEは−12.3%と、メガバンクの4.6%(業種中央値)どころか赤字で算出不能水準まで悪化。 自己資本比率も28.6%と5社中最低で、財務余力が削がれつつあります。
ホンダとの統合交渉(2025年初頭)が破談となった現在、日産単独での再生計画が問われる局面です。 投資判断では「将来のV字回復シナリオ」と「さらなる悪化リスク」のどちらに賭けるかの両極端の判断になります。
6. EV・水素・ハイブリッドの戦略分岐
自動車業界は「100年に一度の変革期」と言われるCASE(Connected/Autonomous/Shared/Electric)の真っ只中にあります。 5社の電動化戦略は明確に分かれています。
- トヨタ: マルチパスウェイ戦略。HEV・PHEV・FCV・BEVすべての可能性を追求。BEV専用工場(メキシコ・米国)も投資中
- ホンダ: GMとの統合プラットフォーム破談後、独自BEV路線へ。「Honda 0シリーズ」を2026年から投入予定
- 日産: アリア・リーフでBEV先行も、その後の販売拡大は停滞。米国向け新型BEVが鍵
- SUBARU: トヨタとの共同開発BEVが主軸。AWD技術と組み合わせたSUVに特化
- マツダ: ロータリーレンジエクステンダー搭載BEVなど独自路線。BEV専用車種の遅れが市場で評価減
BEV専業の中国系(BYD・Li Auto・Geely)に比べると日本メーカーは保守的に映りますが、 ハイブリッドの利益貢献を維持しつつ次世代技術に投資するバランス型戦略が結果的に有利という見方もあります。 業績の差はこの戦略の妥当性が短期で問われる結果といえます。
7. データの出典と注意点
本記事の数値はすべて、各社が EDINET(金融庁の電子開示システム)に提出した有価証券報告書のXBRLデータに基づいています。
- 純利益は親会社株主に帰属する当期純利益
- ホンダの2024年7月株式分割の影響で、2024年度・2023年度の1株配当は表面的に大きく見える点に注意
- PERは決算期末日の株価ベース。日産は赤字のため算出不能(N/A)
- 自動車業界は中国市場・米国市場の動向が業績に大きく影響するため、為替・地政学要因で短期的に業績変動が大きい
- 本記事は事実分析であり投資推奨ではない