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セクター分析

航空大手2社の業績比較 2026年|ANAホールディングスと日本航空(JAL)

日本の航空業界を二分するANAホールディングス(9202)と日本航空(9201)を、 2025年度の有価証券報告書ベースで横断比較します。コロナ禍からの旅客回復、インバウンド需要、LCC・貨物の事業構成、そして財務体質の違いを整理します。

公開: 2026-05-21更新: 2026-05-21読了目安: 約5分

1. 2社の主要指標サマリー(2025年度)

企業売上高営業利益率ROE自己資本比率配当利回り
ANAホールディングス92022.26兆円8.9%13.4%31.5%1.76%
日本航空(JAL)92011.84兆円9.1%10.5%36.4%3.33%

売上規模はANAが上回りますが、営業利益率・自己資本比率・配当利回りはJALがやや優位。両社とも旅客回復で業績は好調圏にあります。

2. ANAとJALを分ける3つの論点

  • 財務体質の差:JALは2010年の経営破綻・会社更生を経て、財務規律を経営の根幹に据えました。自己資本比率36.4%とANA(31.5%)より厚く、これは破綻の教訓が今も生きている表れです。
  • 規模 vs 効率:ANAは売上・路線網で国内最大ですが、規模が大きい分コスト構造も重い。JALはやや小回りの利く規模で営業利益率が高め。「規模のANA、効率のJAL」という対比ができます。
  • 外部環境への感応度:航空業は燃油価格・為替・地政学リスク・感染症に極めて敏感なシクリカル業種です。インバウンド需要は追い風ですが、燃油高や円安はコスト要因。好業績の持続性は外部環境次第という点は両社共通です。

3. 各社の特徴と事業構造

ANAホールディングス9202

売上 2.26兆円/営業利益率 8.9%/ROE 13.4%/PER 8.5倍/自己資本比率 31.5%/配当利回り 1.76%

売上2.26兆円とJALを上回る国内最大の航空グループ。フルサービスのANAに加え、LCC(Peach、エアージャパン)を擁し価格帯を広くカバー。貨物事業も強い。コロナ禍では大規模な増資・借入で資金繰りを乗り切り、現在は旅客回復で業績が回復。

日本航空(JAL)9201

売上 1.84兆円/営業利益率 9.1%/ROE 10.5%/PER 10.4倍/自己資本比率 36.4%/配当利回り 3.33%

2010年の経営破綻・再上場を経て、財務規律を重視する経営に転換。営業利益率9.1%とANAをやや上回る。自己資本比率36.4%とANAより財務が厚く、配当利回り3.3%も高め。LCC(ZIPAIR、スプリング・ジャパン)も展開。

4. データの出典と注意点

本記事の業績数値は、各社が金融庁 EDINET に提出した有価証券報告書を金脈コードが独自に抽出・集計したものです(2025年度決算ベース)。 PER・配当利回りは直近株価ベースで算出しており、株価変動により日々変化します。 本記事は企業比較であり投資助言ではありません。投資判断の最終責任はご自身でお願いします。

日本の航空業界 — 2社体制の歴史と構造

日本の航空業界は長らく日本航空 (JAL) と全日本空輸 (ANA) の 2社による複占体制が続いてきました。1953年に設立された JAL は国策航空会社として国際線を中心に展開、1952年設立の ANA は国内線をベースに国際線へと事業を拡大しました。 転機となったのは 2010年の JAL 経営破綻と再上場 (2012年) です。京セラ創業者の稲盛和夫氏が会長として再建を主導し、徹底したコスト構造改革、不採算路線の整理、機材の小型化、アメーバ経営の導入により、わずか 2年で V字回復を果たしました。この経験から JAL は財務規律・効率経営を最優先する企業文化に変わり、現在の自己資本比率 36% という安定財務に繋がっています。 ANA は破綻を経ていない分、攻めの経営を継続。LCC (Peach、エアージャパン)、貨物事業、訪日インバウンド向けサービスへの投資を積極化し、2024年には売上で JAL を逆転、国内最大の航空グループとなりました。コロナ禍では大規模な公募増資と借入で資金繰りを乗り切り、現在は旅客回復で業績が急回復しています。 両社とも独立系の LCC や外資 (LCC のジェットスター・ジャパンへの出資撤退、エアアジア・ジャパン破綻など) との連携を模索してきましたが、最終的には自社グループ内に LCC を持つ垂直統合戦略に落ち着きました。

業績を左右する論点 — ANA vs JAL

両社を投資家視点で比較する場合、以下の論点が重要です。 ①事業構成の違い ANA は売上規模 (2.26兆円) と国際線・貨物・LCC のポートフォリオの広さで規模感に勝る。JAL は国際線旅客と LCC ブランド ZIPAIR で高単価セグメントを攻める戦略。インバウンド需要回復局面では両社とも追い風だが、ANA の方が貨物の景気感応度が高い。 ②財務体質の違い JAL の自己資本比率 36.4% に対し ANA は 31.5%。コロナ禍での増資の有無、債務返済進捗の差が反映されています。航空業界は燃料価格・為替・地政学リスクに脆弱なため、財務体質が厚い JAL の方が下落耐性は高いと評価されます。 ③配当利回りと株主還元 JAL の配当利回り 3.3% は ANA の 1.8% より明確に高い。JAL は配当性向 30% 程度を維持する明確な還元方針を打ち出している一方、ANA はコロナ禍の資本増強を優先したため還元はまだ控えめ。インカム狙いなら JAL、業績回復ストーリー狙いなら ANA という色分けが可能です。 ④バリュエーション PER は ANA 8.5倍、JAL 10.4倍。PBR は両社 1.1倍前後で、業界平均と比較して特別に割安・割高ではない水準。航空業界は景気サイクルの影響を大きく受けるため、PER のみで判断するのは危険で、Net Debt / EBITDA や ROIC との組み合わせ評価が定石です。 ⑤将来リスク 燃油価格高騰、円安による海外運航コスト増、コロナ再流行、地政学リスク (中東・ウクライナ情勢) が共通リスク。EV/SAF (持続可能航空燃料) 対応の設備投資も今後の負担要因です。

航空業界の今後 — インバウンドと脱炭素

日本の航空業界の中期的トレンドは「インバウンド」と「脱炭素 (SAF)」の 2つです。 インバウンド需要は 2024年に過去最高の 3,687万人を記録し、政府は 2030年に 6,000万人達成を目標としています。国際線シェアの高い JAL、訪日客向け国内線 LCC を持つ ANA の両方が恩恵を受けます。特に Peach は訪日 LCC として高い競争力を持ち、ANA グループの新たな成長エンジンとなっています。 一方、ICAO (国際民間航空機関) は 2050年までに国際航空のネットゼロ達成を求めており、SAF (Sustainable Aviation Fuel) の使用比率を段階的に引き上げる規制が始まっています。日本では国土交通省が 2030年に SAF 比率 10% を目標として掲げており、ANA・JAL ともに数千億円規模の SAF 調達契約を進めています。これは中長期的に燃料コスト増加要因となり、利益率を圧迫する可能性があります。 機材更新でも両社の方針は分かれます。ANA は Boeing 777X、787-10 等大型機を積極的に発注、JAL は中型機 Airbus A350 を中核に置き効率運航を重視。コロナ後の旅客需要回復ペース、ビジネスクラス需要の動向次第で、どちらの戦略が奏功するかが見えてきます。 両社とも 2025年度は業績ピークを迎える可能性が高く、その後の景気減速・燃油価格動向で次の試練が来る業界です。

よくある質問

Q. ANA と JAL の財務特性の違いは?

A. 両社は特徴が対照的です。JAL は配当利回り 3.3%・自己資本比率 36.4% と財務健全性の高さが特徴です。ANA は売上 2.26兆円の国内最大規模で、貨物・LCC まで事業ポートフォリオが広いのが特徴です。両社とも業績が航空需要の景気サイクルに大きく連動する点は共通しています。

Q. 航空業界はインバウンド需要の恩恵をどれくらい受けますか?

A. 訪日客は 2024年に 3,687万人と過去最高、政府目標は 2030年 6,000万人。両社とも国際線旅客収入が大幅に伸び、特に LCC (Peach、ZIPAIR) は訪日客の主要交通手段として高い競争力を持っています。ただし円安効果が剥がれれば訪日需要も冷え込むリスクがあり、為替動向と組み合わせて見る必要があります。

Q. 航空株のリスク要因は何ですか?

A. ①燃油価格高騰 (原油 $80 超で営業利益数百億円規模の影響)、②為替 (円安は海外運航コスト増、円高は訪日需要減)、③地政学リスク (中東紛争で中東経由路線変更が必要)、④コロナ等の感染症再流行、⑤SAF (持続可能航空燃料) 規制対応コスト、⑥金利上昇 (大型機材の借入コスト増)、⑦人手不足 (パイロット・整備士不足)。景気サイクルと突発リスクの両方を抱える業種です。

Q. JAL は再上場後どう変わりましたか?

A. 2010年の経営破綻と稲盛和夫氏による再建を経て、財務規律・効率経営を最優先する企業文化に変わりました。アメーバ経営の導入、不採算路線の整理、機材の小型化により利益率と財務体質が大幅に改善。現在は自己資本比率 36.4%、配当性向 30%、ROE 10% 超を安定的に維持しています。「攻めの ANA、守りの JAL」と評される構図が定着しました。