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財務分析の解説

含み資産・含み益とは|簿価と時価のギャップで割安株を見つける方法

決算書(貸借対照表)に載っている資産の金額は、必ずしも「いま売ったらいくらか」を表していません。 特に土地は、何十年も前に買った値段(簿価)のまま記載され続けます。 この簿価と時価のギャップが「含み益」であり、株式投資で割安株(資産バリュー株)を見つける重要な手がかりになります。 本記事では含み資産の仕組みと、有価証券報告書からの読み取り方を解説します。

公開: 2026-05-21更新: 2026-05-21読了目安: 約8分

1. 含み資産・含み益とは何か

含み益とは、企業が保有する資産の「時価(いま売ったらいくらか)」が 「簿価(決算書に記載されている金額)」を上回っている場合の差額のことです。逆に時価が簿価を下回れば「含み損」になります。

たとえば、ある企業が1970年に1億円で買った都心の土地が、現在の時価で50億円になっているとします。 それでも貸借対照表上の土地は取得時の1億円のまま。差額の49億円が「含み益」です。 この49億円は決算書のどこにも利益として現れず、純資産にも反映されていません。まさに「簿価に隠れた資産」=含み資産です。

含み益の計算

含み益 = 資産の時価 − 貸借対照表上の簿価

2. なぜ土地は簿価のまま載り続けるのか

これは会計のルール(取得原価主義)によるものです。 日本の会計基準では、土地などの有形固定資産は原則として「取得したときの価格」で計上し、その後の時価変動を反映しません。 建物や設備は減価償却で簿価が年々減りますが、土地は減価償却の対象外なので、買った値段のまま半永久的に残ります。

この結果、古くから一等地に不動産を持つ企業ほど、 簿価と時価の差(含み益)が大きくなります。代表例が、明治・大正期から都心に土地を保有する不動産会社、 鉄道会社(駅前一等地)、老舗の製造業(工場跡地)などです。

純資産(自己資本)はこの含み益を含まないため、含み益が大きい企業は「決算書に表れている純資産より、実態の企業価値が大きい」ことになります。

3. 「賃貸等不動産の時価」注記の読み方

含み益は通常は決算書に現れませんが、一部は有価証券報告書の「注記」で開示されています。 それが「賃貸等不動産の時価等に関する注記」です。

企業が賃貸目的などで保有する不動産については、貸借対照表上の簿価(連結貸借対照表計上額)と 期末時点の時価が注記として開示されます。この2つの差が、その企業の「開示された含み益」です。 注記は有価証券報告書の財務諸表のうしろの方にあり、たとえば次のような形で記載されます。

  • 連結貸借対照表計上額(期首残高・期末残高)
  • 当連結会計年度の時価
  • 時価の算定方法(不動産鑑定評価、路線価ベース等)

ただし、この注記の対象は「賃貸等不動産」に限られます。本社ビルや工場など自社で使っている不動産(事業用不動産)は注記の対象外で、 含み益があっても開示されません。つまり開示注記は「含み益の一部」しか見せていない、という点に注意が必要です。

4. 含み益で割安株(資産バリュー株)を見つける

含み益の考え方が投資に役立つのは、PBR(株価純資産倍率)と組み合わせたときです。 PBRは「株価 ÷ 1株純資産」で、1倍を下回ると「株価が会計上の純資産より安い」状態を意味します。

ここで重要なのは、PBRの分母である純資産は含み益を含まない簿価ベースだということ。 もし大きな含み益を持つ企業がPBR1倍割れで放置されていれば、 「含み益を加えた実態純資産」で見ればさらに割安、という二重の割安が起きている可能性があります。

資産バリュー株の考え方

PBR1倍割れ + 大きな不動産含み益 = 実態より株価が安く評価されている可能性

実際に、低PBRかつ含み資産の大きい企業は「アクティビスト(物言う株主)」の投資対象になりやすく、 資産売却・株主還元・経営改革を通じて株価が見直されるケースがあります。 含み資産は「眠っている価値」であり、それが顕在化するきっかけ(カタリスト)があるかどうかが投資の鍵になります。

5. 含み資産投資の注意点

  • 含み益はすぐ現金化されない:含み益はあくまで「売れば得られるかもしれない利益」。企業が土地を売る予定がなければ、株価にはなかなか反映されません。
  • カタリスト(きっかけ)が必要:含み益が大きいだけでは株価は動きません。資産売却、事業再編、アクティビストの介入、東証の資本効率改善要請など、価値が顕在化する材料が要ります。
  • 時価評価には幅がある:不動産の時価は鑑定方法・前提によって変動します。注記の時価も推計値であり、実際の売却価格を保証しません。
  • 含み損のリスク:地価が下落局面にある地域の不動産は、逆に含み損を抱えている可能性もあります。
  • 本記事は投資助言ではありません:含み資産は企業価値を見る一つの視点にすぎず、投資判断はご自身の責任でお願いします。

6. 金脈コードの含み資産推計について

金脈コードでは、各企業の含み資産を独自に推計し、企業ページの「含み資産」タブで提供しています。 推計には、有価証券報告書の賃貸等不動産の時価注記に加え、 注記がない企業についても「主要な設備の状況」の土地簿価・所在地を起点に、 国土交通省の地価公示・地価調査・不動産取引価格情報・用途地域データを統合した時価推計を行っています。

大手不動産・鉄道会社では、当サイトの推計値が企業の開示時価とおおむね±15%以内の精度で一致することを検証しています。 これは「EDINETの数字をそのまま転載」しただけでは作れない、当サイト独自のデリバティブ指標です。 手法の詳細は使い方ページの「独自データ加工の技術的詳細」に記載しています。

個別企業の含み資産推計は、各企業ページの「含み資産」タブでご確認ください。 PBRなどの指標はPBRの解説ページも参考になります。

含み資産投資の歴史 — 1980年代日本のバブル経済とリチャード・コー

「含み資産」(Hidden Assets) という概念は、1980年代後半の日本のバブル経済期に注目を集めました。地価高騰で大手企業が保有する都心不動産の含み益が時価総額を遥かに超え、「不動産含み益 × 株価」という新たな評価手法が生まれました。 その後、米国経済学者リチャード・コーが「日本企業の真の価値は B/S 簿価では見えない」と指摘、含み資産分析が日本独自の投資手法として発展。バブル崩壊後の長期低迷期にも、含み資産豊富な企業 (不動産、商社、メガバンク) は構造的に過小評価されてきました。 2023年の東証 PBR 改善要請以降、再び注目: 「簿価ベースで PBR 0.7倍だが、含み資産加算で 0.4倍」という企業が増配・自社株買い圧力に晒され、投資家が改めて含み資産に注目しています。

含み資産が大きい代表的業界・企業

含み資産が大きい業界: ①不動産大手 三菱地所 (約 4兆円超、丸の内)、三井不動産 (約 3.6兆円)、住友不動産、東急不動産 ②電鉄会社 JR 東日本・東海・西日本 (駅周辺、車両基地)、阪急阪神、東急、西武 HD (沿線土地) ③商社 5大商社 (海外資源権益、海外不動産、出資先企業) ④金融 メガバンク (保有株式の含み益、本店ビル) ⑤伝統的製造業 信越化学 (工業用地)、武田薬品 (湘南研究所)、トヨタ (生産拠点) ⑥電力・ガス 東京電力 (発電所用地)、東京ガス (大阪・川崎ガス管・タンク用地) 代表例の規模: - 三菱地所: 簿価純資産約 3兆円 + 含み益約 4兆円 = 修正純資産約 7兆円 - 三井不動産: 同様の比率 - JR 東海: 路線用地、新幹線車両基地など膨大

含み資産投資の戦略と注意点

戦略: ①修正 PBR 投資 修正 PBR = 株価 ÷ (純資産 + 含み益) で 1倍を大きく下回る銘柄を選別。 ②アクティビスト戦略 含み資産豊富 × 低 PBR の企業に投資、経営陣に還元拡大を要求 (旧村上ファンド、シンガポール EFG ヘッジファンド等の手法)。 ③長期保有 含み資産の価値は短期的には変動しないが、長期的に物価上昇 + 都市再開発で増大。長期保有で確実なリターン。 注意点: ①売却可能性 含み益 = 売却 = 課税 (約 30%)。実現するには税金を考慮。 ②金利環境 不動産含み益は金利上昇で評価減リスク。 ③簿価との乖離が市場で評価されにくい 情報開示が限定的、機関投資家しか正確に把握できない場合あり。 ④海外投資家の理解不足 含み資産概念は日本独自で、海外投資家には理解されにくく評価に反映されない時期も。 ⑤会計基準変更リスク IFRS の公正価値会計化で、含み益が顕在化する可能性 (PBR の見直し)。

含み資産投資の実践事例

実際の含み資産銘柄分析例: ①三菱地所 (8802) - 簿価純資産 約 3兆円、含み益約 4兆円 - 修正純資産: 約 7兆円、修正 PBR: 約 0.5倍 (会計 PBR 1.2倍) - 丸の内・大手町の戦後取得土地が中心、時価評価は数十倍 ②JR 東日本 (9020) - 駅前用地、車両基地、不動産事業の含み益膨大 - 推計含み益 1.5-2兆円超 ③三井不動産 (8801) - 含み益 3.6兆円、修正 PBR 0.5-0.7倍 ④5大商社 (三菱、三井、住友、伊藤忠、丸紅) - 海外資源権益、出資先企業の時価評価で巨額の含み益 ⑤メガバンク (三菱UFJ、三井住友、みずほ) - 保有株式の含み益数兆円規模 投資戦略: ①含み益豊富な企業を 5-10銘柄に分散 ②PBR < 1倍 + 増配・自社株買い意欲ある企業を選別 ③長期保有 (5-10年) で評価リレートを取り込む ④東証 PBR 改善要請の継続効果で評価是正期待 リスク: - 含み益は売却で初めて実現、課税負担あり - 不動産は金利上昇で評価減リスク - 海外投資家には理解されにくい指標

よくある質問

Q. 含み資産はどう調べますか?

A. ①有価証券報告書「不動産明細」「賃貸等不動産の時価情報」セクション ②会社四季報・SBI 証券の含み益データ ③当サイト (金脈コード) の含み資産機能 (国交省地価データから自動推計)。簿価と時価の差を確認。

Q. 含み資産の価値が株価に反映されるのはどんな場合?

A. ①修正 PBR が1倍未満 ②増配・自社株買いへの意欲 ③不動産売却・有効活用計画の存在、の3点が揃ったときに市場の評価が見直された事例が多く報告されています。一方で含み資産の顕在化には長い時間を要するケースが多い点にも注意が必要です。

Q. 含み益はいつ実現できますか?

A. ①売却 (税金 30%、再投資先確保が課題) ②現物分配 (REIT化など) ③不動産再開発で価値顕在化 ④経営権譲渡 (TOB)。完全実現には時間と政治的判断が必要。長期保有のテーマ。

Q. 含み資産分析と PBR、どちらが正しい?

A. 両方使う。PBR は会計ベースの公式値、含み資産分析は実態ベースの分析値。投資家としては「会計 PBR 0.7倍だが含み資産加算で 0.4倍」と両方を併記して評価。アクティビスト圧力 + PBR 改善要請で含み資産企業の市場評価は改善傾向。